BAKERIZATION RESEARCH 企業・財務分析2026年9月
企業分析|食品・外食|東証プライム 2882

「大阪王将の会社」の正体は、
製造インフラ企業だった

売上が伸びても営業利益率が動かない理由を、減価償却と建設仮勘定の二段階で解き、株価が織り込む利益水準を逆算する。

執筆 許 博然2026年9月読了目安 約12分
大阪王将の焼餃子
大阪王将の焼餃子 写真:円周率3パーセント/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
売上高
404億円2026/2期
営業利益率
2.82%2026/2期
EBITDA率
7.03%2026/2期
外食の店舗
471店うち加盟店354店
年間製造重量
約43,000t2023/2期は35,089t
ROIC
4.2%建設仮勘定を除くと4.7%
正常化PER
30.7倍2026/2期
株価
1,989円有報記載のPERから逆算

01どんな会社か

イートアンドホールディングスは、中華料理・餃子の「大阪王将」で知られる会社です。ただし、街で見える店舗は事業の半分にすぎません。売上の57%、利益の75%は、冷凍餃子などの冷凍食品をつくってスーパーや卸に売る食品事業から生まれています。

大阪王将 道頓堀本店
大阪王将 道頓堀本店 写真:Mr.ちゅらさん/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
イートアンドホールディングスの工場
イートアンドホールディングスの工場 写真:Tokumeigakarinoaoshima/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

外食事業でも、自社で運営している店は少数です。471店のうち354店(75%)はフランチャイズの加盟店で、大阪王将に限ると342店のうち290店(85%)が加盟店です。この会社は「店を運営する会社」というより、工場でつくり、他社や加盟店に供給する会社として見たほうが、財務諸表の動きがよく説明できます。

図1
売上・利益・店舗の構成:利益の4分の3は食品事業から
構成比(%)、2026/2期
食品事業/フランチャイズ加盟店(店舗の段)外食事業/直営店(店舗の段)
注:利益構成比は全社費用控除前のセグメント利益合計に対する比率。出所:第49期(2026/2期)有価証券報告書

正体は「製造インフラ×フランチャイズ・卸」

中核にあるのは製造インフラです。関東第一工場・関東第三工場・九州工場と物流拠点、外食向けのセントラルキッチン2拠点を持ち、グループの年間製造重量は2023/2期の35,089トンから約43,000トンへ増えます。つくったものの出口は三つあります。

出口① 卸(冷凍食品)

  • 三菱食品向け6,307百万円、伊藤忠商事向け5,198百万円
  • この2社で連結売上の28%

出口② 大阪王将の加盟店

  • 342店のうち290店が加盟店
  • 自社は供給側に立つ

出口③ R Bakerの加盟店

  • ベーカリー・カフェ48店のうち加盟26店
  • 甲州勝沼のセントラルキッチンから生地を供給

どの出口も「自分で売る」より「他社に供給する」構造です。だから投資は店ではなく工場に向かいます。

02業績推移:伸びる売上、動かない利益率

売上高は2022/2期の30,881百万円から2026/2期には40,456百万円へ31%増え、営業利益も834百万円から1,142百万円へ37%増えました。数字だけなら順調に見えますが、営業利益率は5期とも2.70〜2.95%の幅にとどまっています。規模が3割増えても利幅が動かないのは、固定費が売上と同じ速さで増えているということです。

図2
売上高と営業利益率
売上高(百万円、棒・左軸)と営業利益率(%、線・右軸)
売上高営業利益率
出所:第45期〜第49期 有価証券報告書 連結損益計算書

03謎解き①:利益率は横ばい、稼ぐ力は上昇

営業利益に減価償却費を足したEBITDAは、設備の償却負担を除いた「現金を稼ぐ力」を表します。売上に対するEBITDAの比率(EBITDA率)は、5.98%から7.03%へ上がっています。

図3
EBITDA率と営業利益率:2本の線の開きが減価償却費
%
EBITDA率営業利益率
注:EBITDA=営業利益+減価償却費(連結キャッシュ・フロー計算書)。出所:第45期〜第49期 有価証券報告書

2本の線の差は3.28ptから4.21ptへ広がり、同じ期間に減価償却費は1,014百万円から1,702百万円へ68%増えました。利幅が動かないのは稼げていないからではなく、稼いだ分を償却が打ち消しているからです。では、その償却は何に対するものでしょうか。

04謎解き②:まだ稼いでいない建設中の資産

設備投資は5期連続で減価償却費の1.8〜3.2倍で、定常状態の1.0倍前後を大きく上回っています。この会社は明確な投資局面にあります。

百万円2022/22023/22024/22025/22026/2
減価償却費1,0141,1391,3311,3801,702
設備投資額1,8483,6253,3124,3535,233
設備投資÷減価償却費1.8倍3.2倍2.5倍3.2倍3.1倍

ROICは5.14%から4.19%へ下がりました。しかし投下資本には、まだ稼働していない建設仮勘定3,762百万円が含まれています。これを除くと、ROICは2025/2期の4.6%から2026/2期には4.7%へ、すでに反転しています。ROICの低下は収益力の劣化ではなく、投資の先行によるものです。

図4
ROIC:建設仮勘定を除くとすでに反転
%
ROIC(表面)ROIC(建設仮勘定を除く)
注:ROIC=営業利益×(1-法定実効税率30.58%)÷期中平均投下資本(自己資本+有利子負債)。建設仮勘定を除いた値は2024/2期から算出。出所:有価証券報告書、自己計算

05投資の中身と成長の源泉

5期累計の設備投資19,278百万円のうち、80%が食品事業に向かいました。九州工場(総投資額6,606百万円)、関東第三工場、関東の物流拠点です。外食事業の20%もその多くはセントラルキッチンで、加盟店に供給するための製造設備です。純粋な店舗への投資は、その中のさらに一部にすぎません。

図5
設備投資の内訳:8割は工場へ
5期累計19,278百万円、構成比(%)
食品事業(工場・物流)外食事業(セントラルキッチン・店舗)
出所:第45期〜第49期 有価証券報告書 セグメント情報

成長の源泉も店ではありません。外食の店舗数は472店から471店でほぼ横ばいで、大阪王将は361店から342店へ減りました。伸びているのは、伊藤忠商事向けの卸(+92%)と、ベーカリー・カフェの店舗数(+55%、うち加盟店は10店から26店へ)の二つだけです。会社の成長は「店を増やすこと」ではなく「供給先を増やすこと」から来ています。

図6
供給先の推移
2022/2期=100とした指数
出所:第45期〜第49期 有価証券報告書 主要な顧客ごとの情報・事業の状況

06市場の評価:株価は回収の成功を織り込んでいる

表面のPERは、工場火災の特別損失や固定資産の売却益で純利益が大きく動くため、27倍から60倍まで大きく動きます。一過性の損益を除いた正常化PERは30.7〜38.5倍の範囲に収まっており、2026/2期は30.7倍です。東証プライムの平均(15〜17倍)や食品セクター(20倍前後)を大きく上回る水準で、市場は「今の利益」ではなく「投資が回収された後の利益」に値段をつけています。

図7
PERの推移:表面値と正常化値
倍
表面PER(有報記載)正常化PER
注:2024/2期は純損失のため表面PERは算定不能。正常化PER=株価÷{(営業利益-支払利息)×(1-30.58%)÷株式数}。出所:有価証券報告書、自己計算

株価から、期待されている利益率を逆算する

EV÷投下資本 1.48倍 → 必要ROIC 6.10% → 必要営業利益 1,703百万円 → 必要営業利益率 3.96%
考え方
定常状態ではEV÷投下資本=(ROIC-g)÷(WACC-g)。現在の株価からEV÷投下資本を出し、必要なROICを逆算
前提
WACC 4.60%、永続成長率1.5%、売上高は会社の修正後計画(2028/2期)の43,000百万円
図8
営業利益率:株価が要求する水準と会社計画
%
出所:第49期 有価証券報告書、中期経営計画(当初・修正後)、自己計算

株価が要求する営業利益1,703百万円は、会社の修正後計画(1,250百万円)より453百万円多く、当初計画(2,500百万円)の68%にあたります。市場は「当初計画までは戻らないが、修正後計画よりは上振れする」という中間の位置に株価を置いています。WACCを4.0〜6.5%、永続成長率を0.5〜3.0%の範囲で動かしても、必要な営業利益率は会社計画の2.91%を下回りません(付録B)。

07まとめ

株価が要求する営業利益率
3.96%
必要営業利益 1,703百万円
会社計画(修正後、2028/2期)
2.91%
差の453百万円(+36%)を、九州工場の稼働と価格転嫁で埋められるかが論点。

財務諸表は「投資先行」を示しています。EBITDA率は改善し、建設仮勘定を除いたROICはすでに反転しました。ただし株価は回収の成功を織り込み済みです。見るべき数字は食品セグメントの資産回転率で、5年で1.28回から0.98回まで落ちています。投資先行が正しければ、工場の立ち上がりとともに1.2回前後へ戻るはずで、戻らなければ投資が過大だったことになります。

前提が崩れるとしたら

  • 到達の時期:本試算は定常状態の近似で、何年後に3.96%へ届くかを含まない
  • 圧縮記帳(948百万円)でROICが見かけ上よく出ている可能性

転嫁力

  • 2024年9月に5〜15%の価格改定
  • それでも食品セグメント利益は2025/2期に▲11.7%

取引先への依存

  • 卸の伸びはほぼ伊藤忠商事向け(2,712→5,198百万円)
  • 三菱食品向けは横ばい

付録計算の詳細

A 指標の定義
指標定義2026/2期
EBITDA率(営業利益+減価償却費)÷売上高7.03%
ROIC営業利益×(1-30.58%)÷期中平均投下資本(自己資本+有利子負債)4.19%
ROIC(建設仮勘定を除く)NOPAT÷(投下資本-建設仮勘定3,762百万円)4.7%
正常化PER株価÷{(営業利益-支払利息)×(1-30.58%)÷期中平均株式数}30.75倍
B 必要営業利益率の感応度(WACC×永続成長率)
WACC\g0.5%1.0%1.5%2.0%2.5%3.0%
4.0%3.7%3.5%3.4%3.2%3.1%2.9%
4.6%(基準)4.3%4.1%4.0%3.8%3.6%3.5%
5.0%4.7%4.5%4.3%4.2%4.0%3.9%
5.5%5.1%5.0%4.8%4.7%4.5%4.4%
6.0%5.6%5.5%5.3%5.1%5.0%4.8%
6.5%6.1%5.9%5.8%5.6%5.5%5.3%
WACCを1pt上げると必要営業利益率は約0.96pt上がり、gを1pt上げても約0.31pt下がるだけ。結論を最も左右するのは資本コストの置き方。EV÷投下資本1.4835倍、投下資本19,374百万円、売上高43,000百万円、税率30.58%で固定。株価は有報記載のPERから逆算した1,989円