- 売上高
- 4,270億ペソ2025年度
- 営業利益率
- 8.0%2025年度、連結
- 北米の営業利益率
- 3.3%2021年は7.4%、MEPP調整後
- 工場数
- 249配送ルート約54,000
- 限界ROIC
- 2.59%2021→2025年、MEPP調整後
- WACC
- 8.78%ペソ建て
- 正常化PER
- 21.3倍2025年末
- 株価
- 59.00ペソ2025年末
01どんな会社か
Grupo Bimbo(グルーポ・ビンボ)は、メキシコに本社を置く世界最大級の製パン会社です。食パンや菓子パンを中心に、北米・メキシコ・中南米・欧州・アジアで事業を展開し、2025年度の売上高は約4,270億ペソにのぼります。米国ではSara LeeやThomas’などのブランドも持っています。
売上の中心は北米、利益の中心はメキシコ
地域別に見ると、売上の44%は北米ですが、利益の71%はメキシコから出ています。さらに、工場数が最も多いのは売上の13%にすぎない欧州・アジア・アフリカ(以下EAA)です。売上・利益・工場数で順位がすべて違うことが、この会社を読み解く出発点です。「北米の大手パン会社」として見ると、財務諸表の動きはほとんど説明できません。
ビジネスモデル:自社の車で店頭の棚まで運ぶ「DSD」
Bimboの特徴は、DSD(Direct Store Delivery、店頭への直接配送)と呼ばれる配送の仕組みです。249の自社工場で焼いたパンを、約54,000ルートの自社トラックが小売店へ直接運び、卸売業者や物流センターを通しません。店頭での陳列や鮮度管理、売れ残りの回収まで自社が担います。
問屋に渡さない分だけ粗利は高くなりますが、その代わりに配送と棚替えのコストを自分で抱えます。この販売費は、売れた数量ではなく「ルートの本数と走行距離」で決まるため、ほとんどが固定費です。同じDSDを採る米Flowers Foodsと比べても、売上原価が低く販売費が重い、典型的な構造をしています。
DSDを使わない製パン会社と並べると、この特徴はさらにはっきりします。米国の菓子パン大手Hostess Brandsは、2013年の再出発の際にDSDのルートと運転手をなくし、顧客の倉庫へ運送会社で届ける方式に切り替えました。販売費と広告費は売上の7.6%にすぎません。外食や小売に冷凍パンを卸す欧州のARYZTAも、物流費と販売費をあわせて18.0%です。DSDの2社が売上の36〜40%を販売費に充てているのに対し、非DSDの2社は売上原価の比率が66〜69%と高いかわりに、販売費が軽い構造になっています。
販売費の大部分が固定費であるため、営業レバレッジが非常に高く、売上が落ちると利益は売上以上の速さで落ちます。次の章で、この性質を北米とメキシコの対比で確かめます。
02北米とメキシコ:同じDSDで利益率が4.6倍違う
同じ会社の同じDSDでありながら、メキシコの営業利益率は15%前後で安定しているのに対し、北米は2021年の7.37%から2025年には3.31%まで下がりました(いずれもMEPPの非資金項目を除いた値)。
| 2025年 | メキシコ | 北米 |
|---|---|---|
| 営業利益率(報告ベース) | 15.14% | 3.30% |
| 調整後EBITDAマージン | 20.43% | 9.00% |
| 資産回転率 | 1.43回 | 1.01回 |
| 営業利益÷セグメント資産 | 21.59% | 3.35% |
| 工場数 | 38 | 75 |
| 従業員数 | 約77,000人 | 約26,000人 |
メキシコは工場が北米の半分で、人は3倍です。設備ではなく人で配送の密度をつくるモデルで、固定資産の負担が軽く、外部売上高は北米の0.74倍なのに、セグメント利益は3.7倍あります(図1と同じ基準)。この差を生んでいるのが密度の経済です。本国に集中した物流は、1ルート当たりの販売量が多く、固定費の比率を大きく下げられます。
数量が伸びる地域では利益も伸び、落ちる地域では数倍の速さで落ちる
トラックは売れなくても走り、ルート担当者は棚替えに行きます。だから数量が伸びる局面では固定費が薄まって利益が売上以上に伸び、数量が落ちる局面では1個当たりの配送コストが跳ね上がって、利益が数倍の速さで落ちます。英国の競争当局(CMA)も2026年3月、英国の大手製パン会社が長く赤字である理由を「数量が減っても走行距離は変わらず、同じ本数のより小さい配送になるだけ」と説明しており、密度の経済は北米に固有の現象ではありません。
03資本効率:新しく投じた資本は資本コストに届いていない
2021年から2025年にかけて、Bimboの投下資本は97,586百万ペソ増えましたが、税引後営業利益(NOPAT)は2,526百万ペソしか増えていません。この4年間に新しく投じた資本だけの利回りを限界ROICと呼びます。下の2つの図の「増えた分」どうしを割り算した値で、2.59%(MEPP調整後※)です。資本コスト(WACC)8.78%の3分の1にも届きません。
※ MEPP(北米の複数事業主年金制度)にかかわる非資金項目は年によって大きく動き、2022年には北米の営業利益に19,010百万ペソの非資金の評価益が含まれていました。実力ベースで比べるため、本レポートのNOPATの推移と限界ROICはこの項目を除いて計算しています。除かない報告ベースでは、同じ期間の限界ROICは1.12%です。
- 比べる相手
- WACC 8.78%。平均で見たROIC(2025年、報告ベース7.67%)もWACCを下回る
04北米での諦め:投資を止め、資金を買収と債務へ
会社はこの事実にどう動いたのか。地域別の設備投資を減価償却費と比べると、維持に必要な水準(1.0倍)を大きく割り込んでいるのは北米だけです。北米の設備投資は2025年に減価償却費の0.45倍まで落ち、セグメント資産は1年で11.1%減りました。
株主還元も絞りました。配当はほぼ維持したまま、自己株式の取得を2024年の4,433百万ペソから2025年は1,253百万ペソへ減らし、還元総額は34%減っています。
浮いた資金は二つに向かいました。一つは買収で、2025年の事業取得による支出は11,294百万ペソと5年で最大です。もう一つは債務の管理で、ネット債務÷EBITDAは3.22倍から3.03倍に下がりました。ただしこれはEBITDAの増加による改善で、有利子負債の額は2021年から2025年に52%増え、支払利息は85%増えています。負債の実額が減り始めたのは2026年上期からで、その減少も残高の約3%にとどまります。
05地域ごとの戦略:一つのDSD網から三つの狙いへ
2021年のBimboには、北米のマス市場で規模を取り、密度でコストを薄めるという一つの勝ち筋しかありませんでした。いまは地域ごとに狙いが分かれています。
北米:刈り取り
- 設備投資は減価償却の0.45倍
- 資産は1年で▲11.1%、ルートは▲4,000
- 残ったルートの密度を上げ直す
メキシコ:収穫と維持
- 資産利益率21.59%で全地域最高
- 2021〜23年の大型投資が一巡
- その減価償却が今きている
欧州・アジア:密度を買う
- 設備投資は減価償却の1.42倍
- 資産は2021年比+60.9%
- 買収先も密度の良い市場のDSD
北米:ルートを減らし、残したルートの密度を上げ直す
北米の配送ルートは2024年の58,000から2025年には54,000へ6.9%減り、1ルート当たり売上は7,040千ペソから7,906千ペソへ12.3%増えました。数量を取り戻すのではなく、薄くなった網を畳んで密度をつくり直す動きです。会社は2024年に始めた改革で「記録的な生産性改善」を挙げ、工場3カ所を閉鎖しています。ただし、会社自身は「投資を削った」とは公表しておらず、報告書の設備投資の記載は「規律ある約12億米ドル」という総額一行のみです。
メキシコ:稼ぐ力は過去最高、増えた償却が利益を押さえる
メキシコの調整後EBITDAマージンは2025年に20.43%と過去最高でしたが、営業利益は5年で初めて減りました(▲1.2%)。2021〜23年の大型投資(設備投資は減価償却の最大3.43倍)の償却費が5年で2倍に増えたためで、需要や価格の問題ではありません。設備投資は2023年の18,944百万ペソから2025年には8,879百万ペソへ半減しており、償却の伸びが止まれば営業利益はEBITDAに追いついていきます。
欧州・アジア・アフリカ:買っているのは密度の良い市場のDSD
EAAの調整後EBITDAマージンは2024年に北米を逆転しました。資産は5年で60.9%増え、為替の影響を除いた売上成長は2025年に+11.7%です。ただし資産回転率は0.73回と全地域で最も低く、買収したのれんの重さが残っています。
買収先の多くも毎日店頭へ直送する事業です。ルーマニアのVel Pitar(2023年)は7,000店以上へ毎日配送し、バルカンのDon Don(2025年)は1日約600台が自社名義で走ります。日配の直送でないのは、賞味期限の長い英国のSt PierreとB2BのBimbo QSRくらいです。一方、密度が崩れたスペインでは物流拠点の集約と人員整理が続いています。EAAへの展開は「DSDからの脱出」ではなく、密度が成立する市場でのDSDの買い直しです。
06市場による評価:ROICが落ちても評価は落ちていない
一過性の損益を除いた正常化PERは、2021年から2025年の5期とも17.8〜23.2倍のレンジにとどまっています。2022年の表面PER 7.80倍は、年金制度の見直しによる一過性の利益とRicolino売却益で純利益が膨らんだための錯覚で、正常化すると21.58倍です。
正常化ROEは17.55%から9.75%へ、連結ROICは10.66%から7.67%へ下がりました。理論上は適正PERも下がるはずですが、正常化PERはレンジを出ていません。市場はBimboを見捨てていないということです。
株価の動きを「利益」と「評価」に分ける
- 正常化EPS
- 3.54ペソ(2021年末)→ 2.78ペソ(2025年末)
- 正常化PER
- 17.81倍 → 21.26倍
会社が稼いだ量は21.5%減りましたが、市場は1単位の利益に払う値段を19.3%上げました。この差が、市場が織り込んでいる回復の大きさです。
07結論:株価が要求する営業利益率は11.79%
他の地域が現状のままなら、北米の営業利益率を11.82%まで上げる必要があります。2021年の7.37%に戻すだけでは連結の営業利益率は9.81%にとどまり、届きません。密度の経済が崩れた市場で、メキシコ(15.14%)に近い水準、つまり過去最高を超える利益率を出すということです。
ただし、通貨の置き方で結論は動きます。ペソ建てのリスクフリーレート7.42%にはメキシコの実質金利のプレミアムが約1.7pt含まれており、米ドル建てに置き直すと株主資本コストは約8.07%に下がり、必要な営業利益率も下がります。「株価が高すぎる」とは断定できません。
見るべき数字
- 北米の設備投資÷減価償却が0.45倍から戻るか
- EAAの資産回転率が0.73回から上がるか
- 北米の為替中立の数量が3四半期連続でプラスになるか
- 限界ROICがWACC 8.78%を超えるか
会社に求めたい開示
- ROICと投資のハードルレート
- 資本コストと中期の利益率目標
- 地域別の設備投資の配分
この分析が崩れるとき
- EAAの低い資産回転率が買収直後の一時的なものだった
- 北米の資産縮小が老朽設備の入れ替え完了だった
- 北米の数量が循環的に戻る
付録計算の詳細
A ROICと限界ROIC
| 項目 | 値 | 計算 |
|---|---|---|
| NOPAT(2025年、報告ベース) | 23,902 | 営業利益34,146×(1-税率30%)、百万ペソ。ROICに使用 |
| NOPAT(2025年、MEPP調整後) | 23,921 | 調整後営業利益34,173×(1-30%)。限界ROICに使用 |
| NOPAT(2021年、MEPP調整後) | 21,395 | 調整後営業利益30,564×(1-30%) |
| 投下資本(期中平均) | 311,556 | 資本合計+有利子負債。2021年は213,970 |
| ROIC(2025年) | 7.67% | 23,902÷311,556 |
| 限界ROIC(2021→2025) | 2.59% | NOPATの増加2,526(MEPP調整後)÷投下資本の増加97,586 |
| WACC | 8.78% | 株主資本コスト11.29%(ペソ建て)ほか |
B 株価変動の分解
株価=EPS×PERという定義から、2時点の比をとると「株価の比=EPSの比×PERの比」が必ず成り立ちます。EPSの比は会社が実際に稼いだ量の変化、PERの比は市場が1単位の利益に払う値段の変化です。適正PER=(1-g÷ROE)÷(Ke-g)に従えば、正常化ROEが7.80pt下がった以上、評価倍率も下がるはずでした。配当を含まないため、トータルリターンではありません。
C 株価が要求する営業利益率
| 項目 | 値 | 計算 |
|---|---|---|
| 現在のPBR | 2.1251倍 | 現在の株価から算出 |
| 必要ROE | 19.50% | r+(PBR-1)×(r-g)、r=11.29%、g=4.00% |
| 必要純利益 | 23,306 | 必要ROE×親会社株主に帰属する自己資本、百万ペソ |
| 必要営業利益 | 50,348 | (23,306+非支配持分1,813)÷(1-30%)+支払利息14,464 |
| 必要営業利益率 | 11.79% | 50,348÷売上高426,952 |