Bakerization Research / 外食企業分析

Soup Stock Tokyo はどうやって
約60店舗・売上100億円まで伸びたのか

1本の物語形式の企画書から始まった「食べるスープの専門店」は、なぜ数十店舗のチェーンになれたのか。創業の歴史、売上・利益・店舗数の推移、そして多店舗展開を可能にした構造を整理し、パン屋・ドーナツ店への示唆を抽出します。

作成日:2026年10月17日(土)|対象:株式会社スープストックトーキョー(Soup Stock Tokyo/スマイルズホールディングス傘下)|調査:Bakerization Research(公開情報ベース・一次情報は末尾の出典を参照)
61店舗
Soup Stock Tokyo 直営+FC(うちFC 7店)。2025年3月時点。他に冷凍専門店8店など
109.3億円
売上高(2024年3月期)。創業25年目で初の100億円超え
2.88億円
純利益(2026年3月期・官報)。前期比+63%
6:4
売上構成(外食:物販)。冷凍スープ等の物販が約4割(2026年)
35〜40%
原価率。高原価を許容し、店舗オペレーションを軽くする設計
約8,000人
1店舗あたりの月平均来店客数(公式・出店募集ページ)
1,700名
アルバイト(パートナー)数。社員は257名(2025年3月)
0

要約

  • 規模感:1999年に三菱商事の社内ベンチャーとして1号店を開き、2025年3月時点でSoup Stock Tokyo 61店舗(うちFC7店)、冷凍スープ専門店「家で食べるスープストックトーキョー」8店舗、100本のスプーン5店舗、二階のサンドイッチ1店舗を展開しています。売上高は2024年3月期に109.3億円で初めて100億円を超え、2026年3月期の純利益は2.88億円でした[1][2]。
  • 多店舗化の核は「業態×立地×生産体制」の噛み合わせです。①女性が一人で入れる"食べるスープ"のファストフードという空白ポジション、②15坪前後の駅ナカ・駅ビル小型店への集中、③協力工場でベースを製造・冷凍し、店舗は温めて仕上げるだけの運営――この3点がそろったことで、職人不在でも品質を保ったまま店を増やせました[4][5][7]。
  • それを支えた土台が、「秋野つゆ」というブランド人格による意思決定の一貫性、約1,700名のアルバイトを巻き込む組織施策、そして冷凍スープ物販(売上の約4割)という第二の柱です[13][15][17]。
  • 限界も明確です。店舗数は長らく50〜60店で頭打ち、純利益率は1〜3%、自己資本比率は1割台と薄い財務体質が続きました。2023年以降はJR系小売3社や沖縄のサンエーなど「立地と運営力を持つ相手」とのFC/パートナー運営で地方へ広げる新しい局面に入っています[18][19][20][21]。
1

創業の歴史 ― 物語から始まった店

1997年12月

企画書「スープのある一日」

創業者の遠山正道氏(1962年生まれ、1985年三菱商事入社)は、1997年に出向した日本ケンタッキー・フライド・チキンで、スープ専門店の企画書を起案しました。13ページ・3カ月がかりで書かれたその企画書は、数字の羅列ではなく「企画が実現した10年後の光景」をシーンの連続として描いた物語形式でした。昼時のアークヒルズ店に列が途切れない様子や、JALの機内で出されるスープまで書き込まれており、後者は2008年に実際に実現しています[4][7][8]。

この段階で、ブランドそのものを擬人化した人物「秋野つゆ」と、50店舗という目標がすでに書かれていました。KFCと三菱商事でプレゼンを重ね、「とりあえずやってみろ」とGOサインが出ますが、スープ開発と出店先探しに1年半を要しました[8][15]。

1999年8月

1号店・お台場ヴィーナスフォートの大成功

遠山氏が本来思い描いていた1号店は「恵比寿公園あたりの、緑の借景があって風が抜ける店」でした。しかし「1号店で失敗したら先がない」と判断し、開業したばかりの大型商業施設ヴィーナスフォートを選びます。結果は朝から晩まで15メートルほどの行列。想定していた層を超えて多様な客が訪れたことで、「来る人は拒まず」という考え方に変わったと振り返っています[4][5]。2000年2月、三菱商事の社内ベンチャー0号として株式会社スマイルズを設立しました(資本金5,000万円)[1][4]。

2000〜2003年

2・3号店の失敗と「小さいことはいいことだ」、駅との出会い

3号店は溜池の3階建て路面店(賃料72万円)。広い割に安いと判断して借りたものの、店前の通行量がほとんどなく、チラシ配りやサクラまでしても振るいませんでした。ところが同じ頃に出した恵比寿三越の約4坪・テイクアウト専門店が、溜池店の倍以上を売り上げます。ここで「小さいことはいいことだ」という気づきを得ました[5][6]。

JR東日本からは1号店直後に出店の打診がありましたが、当時の遠山氏は「駅で食べる生活様式ではない」と断っています。4〜5店舗目の頃に再び打診を受け、上野駅改札外に、単なる賃貸借ではなくJRと共同で事業を行うような形で出店。あらゆる客層が一人で入ってくること、店前通行量の桁違いの多さに「駅ってすごい」と実感し、以後の出店は駅ナカ・駅ビル中心に切り替わりました[5]。

2004年

猛暑の危機を救ったカレー、冷凍スープ通販の開始

創業6年目の2004年7月、東京が39.5度を記録する猛暑で熱いスープが敬遠され、ほとんどの店が赤字に転落しました。データを見直すと1店だけ売上を伸ばしており、その店は本部に内緒でカップ入りカレーをご飯にかけて売っていました。社内は賛否で割れましたが、遠山氏は「成功した現場の声に従う」と8月にカレーライスを導入し、これが当たります。この経験から「共感」だけでなく売上数字も重視する経営に転じたと語っています[4]。同じ2004年7月には冷凍スープの通信販売を開始し、後の第二の柱の種がまかれました[1]。

2008年

MBOによる独立、JAL機内食

2008年2月、遠山氏が三菱商事などの保有株式をすべて買い取るMBOで独立。2008年3月期のスマイルズの売上高は約39億円でした[8]。同年6月にはJALと共同で「ON THE SHIP」ブランドを立ち上げ、ハワイ便の機内食を手がけます[1]。創業10年の時点で売上高42億円・52店舗に到達したとされています[27]。

2005〜2016年

全国展開と「家で食べる」業態、そして分社

2005年に中部国際空港・ラシック(中部初)と仙台S-PAL(東北初)、2009年に福岡パルコ(九州初)、2011年にルクア大阪(関西初)、2014年にシンガポール(海外1号店)へ進出しました[1][24][29]。物販では2009年にEchika池袋で冷凍スープの店頭販売を始め、2011年5月に冷凍スープ専門店「家で食べるスープストックトーキョー」1号店を二子玉川に開業。百貨店で冷凍食品だけを売る店は初めてだったと遠山氏は語っています[1][6]。2016年2月、Soup Stock Tokyo事業をスマイルズから会社分割し、株式会社スープストックトーキョーを設立(社長:松尾真継氏)[1]。

2017〜2023年

店舗数の頭打ち、コロナ禍の赤字とV字回復

店舗数は2010年代後半から50〜60店で推移し、「知名度の割に店舗数は多くない」と評されるようになります[11]。2020年3月期の売上高87.3億円はコロナ禍で2021年3月期に70.8億円まで落ち込み、同期は1.1億円の純損失を計上しました[2][3]。ECとデリバリーの伸びで2023年3月期には98.8億円まで回復。2023年4月の「離乳食無償提供」をめぐるSNS上の炎上は業績にほぼ影響せず、2024年3月期に109.3億円で100億円を突破し黒字を確保しました[9][10][11]。

2024〜2026年

新社長・パートナー展開・薬局チャネル

2024年4月、資生堂・ユーグレナ出身のマーケター工藤萌氏が社長に就任し、約20年ブランドを率いた松尾氏は副社長兼CFOに回りました[23]。出店面では、2023年12月の白馬(岩岳リゾート)を皮切りに、JR東海リテイリング・プラス(マリンピア神戸・三井アウトレットパーク岡崎)、JR西日本デイリーサービスネット(ミナモア広島、中国地方初)、サンエー(沖縄・浦添パルコシティ、2025年9月)とFC契約を結び、2026年3月には九州4店舗の運営をJR九州フードサービスへ移管しました[18][19][20][21][22]。2026年7月時点で調剤薬局約80店舗にスープを供給し、売上構成は外食6割・物販4割になっています[17]。2025年9月と2026年5月には価格改定を実施し、既存店では「12種類のスープを自由に選べる店舗」への改装が進んでいます[28]。

2

数字で見る成長 ― 売上・利益・店舗数

売上高の推移(億円)
2008・2009年はスマイルズ時代(Soup Stock Tokyoが主力)。2010〜2019年は非公開。2025年3月期は就活情報サイト掲載値で未確認。
出典:2008年3月期=企業家倶楽部[8]、創業10年(2009年頃)=SINCE.[27]、2020〜2024年3月期=公式サイト・グラフで決算[1][3]、2025年3月期=就活会議[25](参考値)。
純利益の推移(億円)― 株式会社スープストックトーキョー単体
官報決算公告ベース。分社後の2018年3月期から2026年3月期まで。
出典:官報決算データベース(catr.jp)[2]。2024年3月期は331万円の黒字(0.03億円)。
Soup Stock Tokyo(外食業態)の店舗数
各時点の公表値。冷凍専門店「家で食べる」を含む場合があるため、報道ごとに数字がぶれます(下表参照)。
1999年=1号店、2009年頃=創業10年で52店[27]、2017年=約60店[5]、2019年9月=58店[31]、2021年1月=57店[14]、2022年=58店[30]、2024年1月=53店[3]、2025年3月=61店(うちFC7)[1]。

店舗数の公表値一覧

時点Soup Stock Tokyo家で食べる(冷凍専門店)備考・出典
1999年8月1―ヴィーナスフォート店(2009年閉店)[1][24]
2009年頃52―創業10年で売上42億円・52店舗[27]
2017年6月約60―文春オンライン・遠山氏インタビュー[5]
2019年9月589マネーポスト[31]
2020年70(物販含むとみられる)―サイゾーウーマンは「2020年に70店舗」「コロナで52店舗まで減少」と報道[12]。公式の出店募集ページも総店舗数70と表記[16]
2021年1月57―厚労省・働き方改革特設サイト[14]
2021年7月65(物販含むとみられる)―カンブリア宮殿。年間832万杯[4]
2022年58―スマレジ導入事例[30]
2024年1月5311公式・グラフで決算[3]。東洋経済は54店と報道[9]
2024年4月5710マイナビ2026[24]
2025年3月61(うちFC 7)8公式サイト会社概要[1]。ほかに100本のスプーン5店、二階のサンドイッチ1店
2026年10月約60―公式表記は「全国約60店舗」。2025〜26年に町田・沖縄・岡崎・金沢・大井町を開業する一方、虎ノ門ヒルズ・アトレ亀戸・マリンピア神戸・Ginza Novo・コレド日本橋・ラゾーナ川崎などを閉店[28]

財務体質(株式会社スープストックトーキョー単体)

決算期売上高純利益利益剰余金総資産備考
2020年3月期87.3億円0.71億円1.54億円27.3億円コロナ前のピーク
2021年3月期70.8億円▲1.10億円0.44億円29.4億円コロナ禍で赤字転落
2022年3月期91.9億円1.84億円2.28億円37.1億円黒字転換
2023年3月期98.8億円0.54億円2.82億円26.5億円
2024年3月期109.3億円0.03億円2.85億円35.1億円初の100億円超。純資産比率8.4%、固定負債22.3億円[3]
2025年3月期117.9億円(参考値)1.77億円4.62億円34.8億円自己資本比率約13.6%、固定負債約18億円[26]
2026年3月期非公開2.88億円7.35億円34.4億円純利益+63%[2]
数字の読み解き
  • 売上は約25年で3倍、店舗数は微増。2008年3月期の約39億円から2024年3月期の109億円へ伸びた一方、店舗数は52店(2009年頃)から61店(2025年)です。成長の多くは既存店の客数・客単価の積み上げと、EC・ギフト・法人・薬局といった物販チャネルの拡大によるものと読めます。
  • 「薄利を頻度と回転で稼ぐ」モデル。原価率35〜40%に歩率家賃が重なるため純利益率は1〜3%。推奨意向(人に勧めたいか)と来店頻度を優先し、利益率よりも客数を追う設計です[7][13]。
  • 財務は回復途上。コロナ後の借入で自己資本比率は1割前後まで下がりましたが、2025・2026年3月期の増益で利益剰余金は2.85億円から7.35億円へ積み上がり、体質改善が進んでいます[2][26]。
3

多店舗展開を可能にした7つの構造

Soup Stock Tokyoが「数十店舗」に到達できた理由は、単一の施策ではなく、業態・立地・生産・ブランド・組織・収益源・資本という7つの要素が互いに支え合う構造にあります。それぞれについて、何をしたのか(事実)と、なぜ多店舗化に効いたのか(メカニズム)を整理します。

① 業態設計

「女性が一人で入れるファストフード」という空白を埋めた

1999年当時、女性が一人で気軽に入れるファストフードは事実上ありませんでした。サイドディッシュだったスープを主役に据え、「20円安いより200円高くてもちゃんと美味しいもの」というファストフードのアンチテーゼとして設計しています[4][7]。

価格は全商品一律。儲かる商品と儲からない商品が混在しますが、客が値段で悩まないため注文から提供までのスピードが出ます[5]。スープ+ご飯/パンのセットで「白いご飯を堂々と食べられる」食事の場にしたことも、女性客8割という構成につながりました[11]。

効いた理由:競合不在のポジションは、館(商業施設)側から見ても「他にない業態」であり、テナント誘致の対象になりやすい。
② 立地の発見

路面店の失敗から「15坪・駅ナカ」の勝ちパターンへ

溜池の3階建て路面店、六本木、名古屋のオフィスビル地下の大型店はいずれも失敗し、遠山氏は「路面店・大型店で成功した体験がほとんどない」と語っています。一方、恵比寿三越4坪店と上野駅店の成功で、店前通行量が桁違いの駅に集中する方針が固まりました[5]。

イートイン主体(テイクアウトは約2割)のため席が必要で、成立する最小面積は約15坪。「女性が食べたくなる温かいものを、小坪数でコンパクトに回転よく出せる業態」として、デベロッパー側から指名される存在になったことが出店加速の装置でした[5][7]。

効いた理由:小型店は投資額・固定費・失敗時の損失が小さく、好立地の空き区画にはめ込みやすい。館側の需要が供給(出店機会)を生む循環ができた。
③ 生産体制

工場でベースを作り、店舗は「温めて仕上げる」だけ

スープのベースは静岡のキスコフーズ清水工場など協力工場で製造・冷凍され、各店舗へ配送されます。店では温め、生クリームなどで味を整えるだけで、注文から約1分で提供[4]。松尾前社長は「キッチンにこもってジャガイモを剥いて一日が終わるのではなく、セントラルキッチンで質の高いものを作り、店では簡便に出す」モデルへ転換したことで原価率は上がったが、推奨意向と来店頻度が大きく高まったと説明しています[7]。

効いた理由:店舗に調理技能が不要になり、採用・教育の負荷と品質のばらつきが同時に下がる。狭い厨房でも高回転が可能になり、②の小型店戦略と噛み合った。
④ ブランド人格

「秋野つゆ」で意思決定の基準をひとつにした

37歳・都内在住・独身または共働きで経済的に余裕があり、装飾より機能を好み、フォアグラよりレバ焼きが好き、プールではクロールで豪快に泳ぐ――企画書段階で設定された「秋野つゆ」は、顧客ターゲットというより「このブランドが何者か」を表す人格です。メニュー・内装・パッケージ・出店場所まで「秋野さんが好きになってくれるか」で判断されました[7][27]。

商品面では、店頭8種類を週替わりにし月1回新作を出す「迷わない、飽きない」設計で累計300種類以上。化学調味料・保存料不使用、オマール海老やブランデーを惜しまない食材主義が、高原価を納得させる価値になっています[4]。

効いた理由:店が増え、判断する人が増えても、人格に照らせばブレない。創業者でも現社長でもない「第三の人格」が、属人性を薄めつつ一貫性を保った。
⑤ 組織・人

アルバイトを「パートナー」として巻き込む仕組み

2016年の分社時に、事業KPIを売上規模ではなく「各店舗の客数」に置き換え、人事施策の優先度を「パートナー(アルバイト)の巻き込み」に上げました。店舗チームが成果を発表する社内コンテスト「Soup Stock Tokyo Grand Prix」、社長が真っ先にコメントする社内SNS「Smash」、2018年の「働き方開拓」(生活価値拡充休暇、ピボットワーク制度、子どもの年齢を問わない時短勤務)などを導入しています[13][14][24]。

これを主導した江澤身和氏自身が2005年にアルバイトとして入社し、店長を経て2016年に取締役兼人材開発部長に就いた人物です[13]。

効いた理由:③で調理技能が不要になった分、店の体験価値は接客と空間に集中する。1,700名のパートナーの質がそのまま店の質になるため、ここへの投資が多店舗の再現性を担保した。
⑥ 第二の収益柱

冷凍スープ物販で「店舗網=ブランドの陳列棚」に

2004年に通販、2009年に店頭販売、2011年に専門店「家で食べる」、2020年にレトルトカレー、2021年に猫用スープ、2024年に介護食規格の「食べやすさ配慮食」、2026年に定期便刷新と、物販は段階的に広がり、2021年時点で売上の4割に達しました[1][4][28]。法人・産婦人科・保育園・高齢者施設に加え、2026年7月時点で調剤薬局約80店舗が取り扱い、店舗のない地域で処方箋を持たない住民が薬局を訪れる事例も生まれています[17]。

効いた理由:外食は立地と席数で売上の上限が決まるが、物販にはその制約がない。店舗網がブランドの認知装置として機能し、コロナ禍(2021年3月期)の下支えにもなった。
⑦ 資本とガバナンス

商社の信用で立ち上げ、MBOで独立、FC・パートナーで広げる

創業期は三菱商事の社内ベンチャーという信用があり、上野駅出店時には「三菱商事×JR」という組み合わせが共同事業を後押ししました[5]。2008年のMBOで創業者がオーナーとなり、2016年に事業会社として分社。長く「企画を温度感高く実現するには直営が重要」としてFCを避けてきましたが[15]、2023年以降は岩岳リゾート、JR東海リテイリング・プラス、JR西日本デイリーサービスネット、サンエー、JR九州フードサービスといった「立地と運営力を持つ地域企業」に限定してFC・運営委託を進めています[18][19][20][21][22]。

効いた理由:自社で店を増やす資本も人も限られる中、自己資本比率1割台でも地方へ届く手段を得た。相手がJR系・地域トップ小売であることで、②の「駅・一等地」戦略を自社資本なしに再現している。
7つの構造のつながり:①の業態が②の立地を呼び、②の小坪数は③の工場生産がなければ成立せず、③で店から調理が消えた分を④のブランド人格と⑤の人への投資が埋めました。⑥の物販が外食の天井を超える収益を生み、⑦の資本政策が「誰の金で店を増やすか」を段階的に切り替えてきました。どれか一つを真似ても再現しにくいのは、この相互依存のためです。
4

うまくいかなかったこと・現在の課題

立地依存のコスト

駅ナカは高家賃・高工事費・契約満了リスク

駅ナカや商業施設の賃料は歩率制が主流で、遠山氏は「歩率15%で売上1,000万円なら家賃150万円、15坪なら坪10万円相当」と説明しています。工事業者や作業時間帯の制約も大きく、配管を数百メートル回すこともあるといいます[5]。閉店理由の多くは施設との契約期間満了で、2024〜2026年だけでも虎ノ門ヒルズ、アトレ亀戸、マリンピア神戸、Ginza Novo、コレド日本橋、ラゾーナ川崎などが閉店しています[28][29]。

店舗数の天井

企画書の目標は50店、現実は「せいぜい70店舗」

創業者の企画書の目標は50店舗で、社内でも「広がり方がせいぜい70店舗」と語られています[15]。駅ナカ・駅ビルの一等区画は有限で、首都圏偏重・地方はターミナル駅のみという構造から、2010年代後半以降は50〜60店で頭打ちになりました[11]。

薄い利益と財務

純利益率1〜3%、自己資本比率1割台

高原価と歩率家賃により、売上100億円超でも純利益は数千万〜3億円の範囲です。2024年3月期の純資産比率は8.4%、固定負債は22.3億円、2025年3月期の自己資本比率は約13.6%と、借入依存度の高い体質が続いています[3][26]。

外部ショックへの脆さ

猛暑・事故米・コロナ・炎上

2004年の猛暑で大半の店が赤字、2008年のMBO直後には事故米問題でブランド再起を迫られ、2021年3月期はコロナで赤字、2023年には離乳食無償提供をめぐりSNSで炎上しました[4][11][32]。いずれも乗り越えていますが、単一商材・単一立地タイプへの集中は、環境変化の影響を受けやすい側面があります。

コスト上昇と価格

2025年9月・2026年5月に価格改定

食材・人件費の上昇を受け、1年以内に2度の価格改定を実施しました[28]。「20円安いより200円高くても」という創業時の価値提案が、物価上昇局面でどこまで許容されるかは今後の論点です。

理念の継承と収益化

「社会性」を強める新体制の成果はこれから

工藤社長は「ブランドに社会性を加えたい」として、食のバリアフリー、薬局・医療・介護チャネル、法人向けの強化を掲げています[10][17]。理念への共感が採用やFCパートナー獲得に効いている一方、これらの新チャネルが利益率の改善にどこまで寄与するかは、まだ検証段階にあります。

5

Bakerizationへの示唆 ― パン屋・ドーナツ店に移植できること

Soup Stock Tokyoの歩みを、2027年春に予定するドーナツ専門店(B2Cの実証店舗)と、kiji hub(業務用ミキサーIoT)を軸にしたBakerizationの文脈に引き寄せると、次の7点が移植可能な「型」として浮かび上がります。

1

1号店は「失敗できない立地」、業態の学習は2〜3号店で

遠山氏は理想の立地を捨て、集客力のある商業施設で1号店を成功させ、その後の溜池路面店の失敗と4坪店の成功から「小さいことはいいことだ」という型を見つけました。ドーナツ店の1号店も「行列と実証データを作る場所」と「業態を試す場所」を分けて考える価値があります。

SSTの事実:1号店は15mの行列、3号店は店前通行量ゼロで不振、同時期の4坪店が倍以上の売上。

2

「小さく、回転よく、館から指名される業態」を設計する

出店が加速した本当の理由は、営業努力ではなく「小坪数で温かいものをコンパクトに回せる業態」としてデベロッパー側から指名されたことでした。ドーナツ店でも10〜15坪で成立するオペレーションと、館側に語れる穴埋め価値(女性一人客、朝・夕の需要、テイクアウトと滞在の両立)を最初から設計しておくと、2店舗目以降の出店機会が向こうから来ます。

SSTの事実:イートイン主体で最小約15坪、テイクアウトは約2割、1店舗あたり月約8,000人来店。

3

製造は集約し、店舗は「仕上げ」に特化する

協力工場+冷凍ベース+店舗1分提供という分業が、職人不在の多店舗化を可能にしました。パン・ドーナツなら、生地はセントラル(または協力工場)で仕込み、店舗では発酵・フライ・仕上げのみを行う分業が同じ構造です。kiji hubが担う「仕込みの再現性をデータで担保する」という役割は、まさに③の生産体制をパン屋向けに置き換えたものといえます。

SSTの事実:ベースは協力工場で製造・冷凍、店舗は温めて味を整えるだけ、原価率35〜40%を許容。

4

ブランド人格で判断基準をひとつにする

「秋野つゆ」は顧客像ではなく「ブランドが何者か」を表す人格で、店が増えても判断がぶれない装置でした。Bakerizationの「持続可能なパン屋」というテーマも、スローガンのままではなく「どんな人がどう暮らし、何を選ぶか」という人格に落とすと、メニュー・内装・立地・価格の意思決定が店舗横断で揃います。

SSTの事実:企画書段階で人格を設定、店頭8種を週替わり・月1新作で「迷わない、飽きない」。

5

物販を第二の柱に、店舗網はブランドの「陳列棚」に

冷凍スープは通販開始から約17年で売上の4割に育ち、立地と席数に縛られない収益源になりました。ドーナツやパンでも、冷凍・ギフト・法人・定期便の設計を1号店開業前から組み込み、店舗を「体験と認知の場」、物販を「利益の場」と役割分担させることが、SSTから学べる最も大きな構造です。

SSTの事実:2004年通販→2011年専門店→売上4割、薬局約80店で取り扱い。

6

アルバイトを主役にするKPIと仕組み

分社時に「売上規模」から「店舗ごとの客数」へKPIを切り替え、社内コンテストと社内SNSでパートナーを巻き込みました。少人数で回す小型店ほど、一人ひとりの接客が店の質を決めます。店舗オペレーション支援を掲げるBakerization Researchにとっても、「KPIを何に置くか」はクライアント支援の中核論点になります。

SSTの事実:アルバイト出身の取締役が人材開発を主導、2018年に「働き方開拓」を導入。

7

FCは直営で型を固めてから、相手は「立地と運営力を持つ企業」に限る

SSTがFCに踏み出したのは創業24年目で、相手はJR系小売3社や沖縄の有力スーパーなど、一等地と店舗運営力をすでに持つ企業に限定されています。パン屋のFC・ライセンス展開(kiji hubと組み合わせた「パン屋パッケージ」など)も、直営で業態を固め、パートナーの選定基準を先に決めてから進める順番が重要です。

SSTの事実:2021年時点で「基本的にFCはやっていない」→2023年以降に岩岳・JR東海・JR西日本・サンエー・JR九州と提携。

6

年表

年月出来事
1997年12月遠山正道氏が日本KFC出向中に物語形式の企画書「スープのある一日」を起案
1999年8月お台場ヴィーナスフォートに1号店を開業
2000年2月三菱商事の社内ベンチャー0号として株式会社スマイルズ設立
2000年代初頭溜池路面店(3号店)の不振、恵比寿三越4坪店の好調、上野駅への初の駅出店
2003年通信販売、キリンビバレッジ発売元の缶入りスープなど店舗外販売を開始
2004年7〜8月記録的猛暑で大半の店が赤字に。カレーライスをメニュー化。冷凍スープの通販事業を開始
2005年中部国際空港店・ラシック店で中部初進出、仙台S-PAL店で東北初進出
2008年2月遠山氏のMBOにより三菱商事から独立(2008年3月期売上高約39億円)
2008年6月JALと「ON THE SHIP」を立ち上げ、ハワイ便の機内食を手がける
2009年創業10年で売上42億円・52店舗。Echika池袋で冷凍スープ店頭販売、福岡パルコ店で九州初進出
2011年5月冷凍スープ専門店「家で食べるスープストックトーキョー」1号店(二子玉川)、ルクア大阪で関西初進出
2014年1月海外1号店をシンガポールに出店
2015年4月ファミリーレストラン「100本のスプーン FUTAKOTAMAGAWA」開業
2016年2月スマイルズから会社分割し、株式会社スープストックトーキョー設立(社長・松尾真継氏)。KPIを「店舗ごとの客数」に
2018年4月「働き方開拓」として生活価値拡充休暇・ピボットワーク制度を導入
2019年4月北海道に初進出
2020年コロナ禍。レトルトカレー「Curry for Stock」発売。2021年3月期売上70.8億円・純損失1.1億円
2023年4月離乳食無償提供をめぐりSNSで炎上、業績への影響は限定的
2023年12月白馬岩岳マウンテンリゾートに初のFC店(長野県初)
2024年4月工藤萌氏が社長に就任、松尾氏は副社長兼CFO。2024年3月期売上109.3億円で100億円突破
2024年11月JR東海リテイリング・プラスとのFCでマリンピア神戸店(2026年3月閉店)
2025年3月JR西日本デイリーサービスネットとのFCでミナモア広島店(中国地方初)
2025年9月サンエーとのFCで沖縄・浦添パルコシティ店(沖縄初)。価格改定
2025年11〜12月三井アウトレットパーク岡崎店(FC)、金沢百番街Rinto店を開業
2026年3月九州4店舗の運営をJR九州フードサービスへ移管。大井町トラックス店を開業
2026年5月価格改定
2026年7〜8月調剤薬局約80店舗にスープを供給、薬局向け事業を本格展開。売上構成は外食6割・物販4割
2026年12月(予定)中野店をアトレ中野へ移転開業
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出典

本文中の [番号] は以下に対応します。数値は各出典の公表時点のものであり、報道により集計範囲(物販店を含むか等)が異なります。

  1. 株式会社スープストックトーキョー「企業情報(会社概要・沿革)」 soup-stock-tokyo.co.jp/company-info
  2. 官報決算データベース(catr.jp)「株式会社スープストックトーキョーの会社情報・決算公告」 catr.jp/companies/bb213/12331
  3. グラフで決算「スープストックトーキョー 売上と財務、決算の業績推移」 gurafu.net/jpn/soup-stock-tokyo
  4. テレ東プラス「スープを主役に変えた!常識破りのファストフード店:読んで分かる『カンブリア宮殿』」(2021年7月) tv-tokyo.co.jp
  5. 文春オンライン「Soup Stock Tokyoが『エキナカ』で成功した理由」遠山正道氏インタビュー#1(2017年6月) bunshun.jp/articles/-/3041
  6. 文春オンライン「Soup Stock Tokyoに学ぶ『小さいことはいいことだ』の哲学」同#2 bunshun.jp/articles/-/3042
  7. interfm「お店ラジオ」松尾真継氏回(2022年11月) interfm.co.jp
  8. 企業家倶楽部「【頑張るしなやか企業】スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道」 kigyoka.com
  9. 東洋経済オンライン「『料理の脇役から主役へ』スープストック躍進の訳」(2024年1月) toyokeizai.net
  10. Business Insider Japan「スープストック新社長、葛藤を超え"出産"決意」(2024年6月) businessinsider.jp
  11. MONEY VOICE「女性客8割のスープストックトーキョー、なぜ業績V字回復?」 mag2.com
  12. サイゾーウーマン「【Soup Stock Tokyo】"離乳食無料提供"で炎上も売り上げ好調!」(2024年4月) cyzowoman.jp
  13. ITmedia ビジネスオンライン「弱みだった『人』をどう変えた? アルバイト出身の女性役員が語るスープストックトーキョー流の働き方」(2018年7月) itmedia.co.jp
  14. 厚生労働省 働き方改革特設サイト File.55「社員の声を聞き進めた『働き方開拓』」(2021年1月) hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp
  15. Wantedly「スープストックトーキョーに学ぶ、最先端マーケティング」 wantedly.com
  16. Soup Stock Tokyo「出店候補物件募集」 soup-stock-tokyo.com/siteoffers
  17. 薬事日報「【スープストックトーキョー】スープ提供事業を本格展開‐処方箋なしの来局事例も」(2026年8月25日) yakuji.co.jp
  18. Soup Stock Tokyo「九州地区の店舗運営体制変更および、JR九州フードサービス株式会社とのパートナーシップ締結のお知らせ」(2026年2月27日) soup-stock-tokyo.com
  19. 西日本旅客鉄道 プレスリリース「株式会社スープストックトーキョーとの『フランチャイズ契約』締結および『ミナモア広島』への出店」(2025年3月) prtimes.jp
  20. JR東海リテイリング・プラス「Soup Stock Tokyo 三井アウトレットパーク マリンピア神戸店」「同 岡崎店」 jr-plus.co.jp(神戸) / jr-plus.co.jp(岡崎)
  21. ダイヤモンド・チェーンストア「サンエー、スープストックトーキョーとフランチャイズ契約を締結」(2024年10月) diamond-rm.net
  22. 日本経済新聞「白馬村山頂にスープストックトーキョー 岩岳リゾート」(2023年11月) nikkei.com
  23. 日経クロストレンド「スープストック社長交代 マーケ出身の工藤萌氏が『チーム経営』推進」(2024年3月) xtrend.nikkei.com
  24. マイナビ2026/2027「(株)スープストックトーキョー 会社概要(沿革・店舗展開)」 job.mynavi.jp
  25. 就活会議「スープストックトーキョーの企業情報」(2025年3月期売上高の掲載値) syukatsu-kaigi.jp
  26. 決算公告データ倉庫「#6360 決算分析:株式会社スープストックトーキョー 第10期決算」(2025年11月) ryo-nakamura1.hatenablog.jp
  27. SINCE. ブランディングナレッジベース「スープストック トーキョーのターゲットは『秋野つゆ』さん」 since2020.jp
  28. Soup Stock Tokyo「お知らせ」一覧(開店・閉店・価格改定・リニューアル等) soup-stock-tokyo.com/information
  29. Wikipedia「スープストックトーキョー」 ja.wikipedia.org
  30. スマレジ 導入事例「Soup Stock Tokyo」 smaregi.jp
  31. マネーポスト「スープストックトーキョー」(2019年9月時点の店舗数) moneypost.jp
  32. Schoo「ブランドづくり」授業ページ(江澤身和氏略歴、2008年事故米とブランド再起の章立て) schoo.jp